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大阪高等裁判所 昭和44年(ラ)50号 決定

抗告人

東海観光株式会社

右代表者

朴鐘淳

右代理人

臼杵敦

相手方

社団法人 日本音楽著作権協会

右代表者理事

春日由三

右抗告人から、神戸地方裁判所が同庁昭和四四年(モ)第五九号間接強制申立事件につき昭和四四年一月二二日になした決定に対して、即時抗告があつたので、当裁判所は、次のように決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙に記載したとおりである。

抗告の理由二、について

間接強制を命ずる決定(民訴法七三四条)は、口頭弁論を経ないでこれをなすことができ、この場合には決定前に債務者を審尋しなければならないことは民訴法七三五条に規定するところであるが、右の債務者の審尋は書面又は口頭をもつて債務者に陳述をなさしめる機会を与えるをもつて足り、この機会を与えられた債務者がこれに応じて現実に陳述しなければ前記決定をすることができないものではない。記録によると、原裁判所は、昭和四四年一月一一日、本件申立事件につき債務者を審尋することとして、その審尋期日を同月二二日午後二時と指定し、同期日の呼出状は同月一三日債務者に送達されたが、債務者は右の審尋期日に出頭しなかつたものである事実が認められるので、債務者としては同期日に出頭し陳述をする機会を与えられたものというべく、債務者が同期日に出頭しなかつたことにつき特別の事情の認められない本件においては、原裁判所がその後の審尋手続を打切つて原決定をなしたことには、何らの違法はない。したがつて、抗告人のこの点に関する主張は採用できない。

抗告の理由三、について

記録によると、次の事実が認められる。

(1)  相手方は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律六七号)二条により主務大臣の許可を受けて同法所定の著作権に関する仲介業務をなすことを目的として設立した法人であつて、昭和一五年二月一九日、同法三条一項に基づき主務大臣の認可を受けて「著作物使用料規程」を定めた(但し、その内容はその後たびたび変更されて現在にいたつている。)。相手方は、著作権者の委任に基づき著作物を管理し、著作物を利用する者がある場合にはその利用者と著作物の利用に関する契約を締結し、利用者は右著作物使用料規程で定める使用料を相手方に支払う義務を負担し、これを相手方の事務所で支払うものとされている。

(2)  右の規程による使用料率は、音楽著作物の実演のうち、軽音楽一曲一回の演奏会形式による使用料につき、収容人員五〇〇名未満の場合に、使用時間が五分未満にあつては平均入場料一〇〇円未満のとき二〇〇円、同二〇〇円未満のとき三〇〇円、同五〇〇円未満のとき四〇〇円、同一、〇〇〇円未満のとき五〇〇円と定められ、右著作物をキャバレー、カフエー、ナイトクラブ、ダンスホール、喫茶店、ホテルその他これらに準ずる社交場において使用する場合は、右に定められた使用料の五割の範囲内において、使用状況及び演奏時間を斟酌して使用料を決定することとし、この場合の斟酌の合理的基準として、相手方においては、収容人員五〇〇名未満をさらに一〇〇名単位で段階的に区分し各社交場の客席数に応じてこれを斟酌する方法をとつていた。

(3)  抗告人がその肩書地所在東海観光ビル内において経営する次の各営業所の経営規模、相手方の管理する音楽著作物(本件申立ての基本となつた原裁判所昭和四三年(ヨ)第一一三二号仮処分決定掲記の「楽曲リスト」及び「追加楽曲リスト」記載のもの。以下、本件音楽著作物という。)の演奏の状況、ことに昭和四三年一二月二日から同月三〇日まで及び昭和四四年一月一八日における一日平均演奏曲数(但し、いずれも一曲一回の使用時間は五分未満。)は

(イ)  「ナイトタウン・白い森」(キャバレー)にあつては、収容人員五〇〇名未満、平均入場料については同所は連日ショウを上演しており飲食代金等総額に含まれる入場料総額は後記「シャルマンクラブ・白い森」に比較してより高額であることが推定でき少くともその入場料相当額は二〇〇円以上五〇〇円未満を超えること、客席数は三〇〇名以上四〇〇名未満であつて、一日当り平均演奏曲数は六〇曲以上であること。

(ロ)  「シャルマンクラブ・白い森」(ダンスホール)にあつては収容人員五〇〇名未満、平均入場料は、その入場料一人三三〇円同伴五五〇円であるので、二〇〇円以上五〇〇円未満に該当し、客席数二〇〇名未満であつて、一日当り平均演奏曲数は七〇曲以上であること。

(ハ)  「洋酒天国・白い森」(キャバレー)にあつては、収容人員五〇〇名未満、平均入場料一〇〇円未満、客席数二〇〇名未満であつて、一日当り平均演奏曲数は一二〇曲以上であること。

(4)  抗告人は、相手方の申請に基づいて原裁判所が昭和四三年一一月二九日になした前記仮処分決定を同年一二月二日送達を受け、同仮処分において抗告人が経営する右(3)の(イ)ないし(ハ)の営業所で本件音楽著作物をその営業のために演奏してはならないこと。右音楽著作物をレコードにより演奏する場合、各音楽著作物につき、演奏の都度、その各題名、作曲者及び作詞者の各氏名を拡声器により明瞭に告知しなければならない旨を命じられているにもかかわらず、同月二日から昭和四四年一月一八日まで、前記(3)記載のように右音楽著作物をその営業のため、「ナイトタウン・白い森」においては、営業時間中出演の各楽団に演奏させ、「シャルマンクラブ・白い森」においては、営業時間中出演の各楽団に演奏をなさしめ、そのほか楽団交替時に、レコードによりその題名、作曲者及び作詞者の氏名を告知しないで演奏し、「洋酒天国白い森」においては営業時間中レコードによりその題名、作曲者及び作詞者の氏名を告知しないで演奏するなどして、前記仮処分命令に定めた義務に違反し、その後なお、右のような演奏をなすおそれがあること。

以上の事実が認められ、右事実によると、抗告人において本件音楽著作物を演奏することにより、「ナイトタウン・白い森」については、一曲あたり一六〇円であるから、一日六〇曲の使用料は九六〇〇円、「シャルマンクラブ・白い森」については、一曲あたり八〇円一日七〇曲の使用料は五、六〇〇円、「洋酒天国・白い森」については、一曲あたり四〇円、一日一二〇曲の使用料は四、八〇〇円で、右各営業所の使用料の合計は金二万円となり、相手方は抗告人の仮処分命令の違反による本件音楽著作物の演奏により一日につき右使用料二万円に相当する損害を蒙ることとなる。抗告人は、この点につき、一日金二万円の割合による使用料は抗告人と同一程度の同業者の音楽著作物使用料に比較して不当に高額であると主張し、他の同業者の相手方に支払つた音楽著作物使用料の領収書を提出するけれども、これをもつて、いまだ右の認定を覆えすに足る資料とすることはできないし、そのほか抗告人の主張も採用することはできない。

そのほか、記録を調べてみても、原決定にはこれを取り消すに足る違法の点はみあたらない。

したがつて、抗告人に対し前記仮処分に基づく間接強制として、原決定の告知を受けた日から三日以内に右仮処分決定に表示された音楽著作物の演奏の停止を命じ、抗告人がその履行をしないときは、相手方に対して、右期間満了の翌日から一日金二万円の割合による金員の支払いを命じた原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のように決定する。(小石寿夫 宮崎福二 舘忠彦)

別紙 抗告の趣旨及び理由〈省略〉

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